消化器内科とヘモグロビンA1c

 我々消化器内科医が常に立てているアンテナの一つに、ヘモグロビンA1cというものがあります。この値は過去1‐2か月の血糖値を反映するデータで、糖尿病の治療効果の評価などで用いられる項目です。皆さんも健診等で耳にされたこともあるかもしれません。その血糖の指標を消化器の先生がなぜ?と思われるかもしれませんが、実はこの値、癌の可能性を示してくれるのです。糖尿病の方でこの値が急速に上昇した場合、糖尿病の精査はもちろんのこと、膵臓などの癌を念頭に腫瘍マーカーの測定や腹部超音波検査を行います。私も気を付けて検査を行っていますが、これが結構高い頻度でがんが見つかるのです。膵臓癌は5年生存率が20%台とたちの悪い癌ですのですぐに外科の紹介するのですが、症状がないのにもかかわらず既にリンパ節などへ転移していて、切除できない方もおられるのが実状です。また、大腸などの他臓器に癌があることもあるので、場合によっては内視鏡やCTなど全身検索をお勧めしています。以下にHbA1cが7.0から11.5に増悪した患者さんの画像をお示しいたします。

膵臓癌の超音波画像。点線内に境界不明瞭な腫瘤影が確認できる。
膵臓癌の超音波画像。中心の点線で囲まれた部分に膵臓癌があり、膵管を圧迫することで主膵管に膵液が貯留している。
同症例のMRI(MRCP)画像。白く見えるのが拡張した主膵管。この画像では腫瘍は確認できない。

糖尿病と癌の関連性は解明されていないのですが、仮説の一つとして、高血糖状態がミトコンドリア代謝などを介して酸化ストレスを亢進させることでDNAを損傷し、発癌につながるのではないかといわれています。また,癌細胞の増殖には大量の糖を必要とするため,慢性的な高血糖状態はがん細胞の増殖を助長する可能性も考えられます。

膵臓癌は、私が学生だった30数年前と5年生存率がさほど変わっていない手ごわい癌の一つです。現在の科学技術では5mm以下の膵臓癌の検出は困難で、10mmを超えると他臓器へ転移している可能性が高くなるとされています。つまり、如何に5-10mmの間で癌を発見できるかにかかっているのです。そのため私たちは日々「疑わしきは罰する」の覚悟で診療にあたっています。