ある日の診療後、クリニックの電話が鳴りました。物騒な昨今、セキュリティの関係で18時以降の取り次ぎは出来ません。電話に出ず閉院の準備を続けていると今度は勝手口のインターフォンが鳴りました。着替えの最中だったため、そっと様子を伺っていますと、今度は正面玄関をたたき何やら叫んでいます。もうここまでくるとこちらも天照大御神の天岩戸隠れよろしくクリニックの奥深くで籠城を続けるしかありません。やがて人の気配が消えましたので、そろそろ良かろうと通用口から外に出たとたん、人が駆け寄ってくる気配がしました。「ぐっ、ばれたか!」と、バツの悪い気持ちで振り返りますと、なんと警備会社1名、警察官2名、私服刑事3名の計6人に囲まれてしまったではありませんか。状況が飲み込めずにいると、驚いたことにクリニックに突入する機会をうかがっていたとのこと。

警備員の説明によると、クリニックの非常警報ボタンが押されたので急行してきたそうです。調べてみると、どうやら後片づけの際、職員の手違いで誤って触ってしまったらしい。
何も知らない私としては単なるミスぐらいに思っていたのですが、彼らからすると捨ててはおけません。警備会社にクリニックからの非常警報(当院のミス)→クリニックへ電話をかけたが応答なし(留守番機能まかせ)→強盗犯が籠城の可能性あり→警察へ通報とともに現地に急行、気配があるが呼びかけに応答なし(居留守)→強行突入と、まさに鍵を開けて入るところだったとのことでした。

実況見分の結果、事件性はないこととなり一件落着かと思ったのですが、皆さんなかなか帰ろうとしません。さすが日本の警察、こんなにも心配してくれるのかとまんざらでもない気持ちでいたところ、リーダーと思しき刑事さんが私を見据えてこう切り出してきました。「先生に脅されて監禁されている患者が、非常ボタンを押して助けを求めたという可能性は無いですかね?」
「ッ・・・。」

以上、犯人扱いをされていることに全く気付かずにいた、おめでたい一例を紹介しました。
