それって寝違い?

 胃腸科の私ですが、たまに思いもよらない専門外の病気に遭遇することがあります。本日は、そのなかでひやりとした症例を提示させていただきます。

症例:70歳代女性

主訴:寝違えと嘔吐

病歴:入浴中シャンプーを洗い流すため頭を下に向けたところ、首に寝違えのような痛みを感じた。吐き気も催したため早めに就寝した。朝には嘔気は消失したが嘔吐と首の痛みがあり、シップを希望し来院。

所見:歩いて元気に来院。「風呂で首を捻じった」とのこと。首の痛みと定期的嘔吐以外異常なし。

評価:頸部の痛みと頻回の嘔吐から髄膜炎が否定できず、念のため病院紹介

診断:くも膜下出血、脳動脈瘤微小破裂

考察:元々未破裂脳動脈瘤があったが、たまたまシャンプーを洗い流す際うつむいたことで、動脈瘤へ血圧の負荷がかかり、動脈瘤に小さな亀裂が生じて軽度のクモ膜下出血に至った。

脳動脈瘤の図
脳動脈瘤のイメージ図。Wikipediaより引用

 患者さんは吐き気があるため、胃腸科の当院にご来院いただきました。幸いなことに完全破裂に至る前だったようで、紹介先の院長先生からお褒めの言葉を頂戴しました。もし破裂してしまっていたら、昨晩の風呂場の段階で重篤な状態になっていたでしょう。脳動脈瘤の破裂頻度については、その大きさに比例しており、3-4mmの小さなもので年間0.3%ですが、10-24mmで年間4.37%、25mm以上では33.4%に上昇するとされています。一般に70歳以上の高血圧の有する女性に生じやすい傾向にあります。

病院に紹介することにしたポイントは、嘔気を伴わない嘔吐です。胃腸炎やめまいなどで嘔吐する場合はたいてい吐き気を伴います。しかしこの患者さんは、定期的に前触れもなく小さく嘔吐を繰り返していました。にこやかに嘔吐する姿は、異様な印象を与えるものでした。髄膜炎は診断が難しく、後手後手になってしまうことも珍しくありません。頭頚部痛に嘔吐反射が合わさっていたので、髄膜炎などの頭蓋内圧亢進による症状と判断し、高次医療センター紹介としました。

私は、虫の知らせというか医師の直感が働くと、迷わず病院紹介をお勧めするようにしています。肝心のその直感ですが、感度が良すぎるのでしょう、杞憂に終わることが多いですが・・。

しかしこの症例、クモ膜下出血とはわかりませんでした。大変勉強になった症例でした。