七変化

 8月23日のブログ、「良性?悪性?」のところで胃癌と胃潰瘍の違いをご説明いたしました。その際、胃がんが増殖と脱落を繰り返し、短期間で様変わりすることをお話いたしましたが、本日はその胃癌の変化をお見せいたします。

症例70代男性

主訴:吐血

現病歴:ここしばらく食欲不振と便が黒っぽいことに気づいていたが様子をみていた。朝歯磨きの際嘔吐、コーヒー残渣様の吐瀉物を認めたため来院。

既往歴:特記すべきことなし

現症:緊急胃カメラを施行したところ、胃体部小弯に巨大潰瘍と凝血塊の貯留を認めた。写真1。潰瘍辺縁からの生検施行①。禁食点滴、輸血治療のため入院となった。

吐血で緊急検査時の内視鏡所見。胃体部小弯側に、凝血塊の付着した深掘れ潰瘍を認める。
写真1:胃に巨大深掘れ潰瘍を認める。潰瘍底からの出血による黒色凝血塊を認める。

第10病日:入院後の胃カメラを施行(写真2)。出血は認められず、潰瘍は治癒傾向にあることを確認した。悪性腫瘍の鑑別のため生検施行②。

治療効果判定のために胃カメラを施行。潰瘍の縮小と、肉芽組織増殖を認め、快方に向かいつつある。
写真2:潰瘍底は浅くなり、潰瘍は縮小傾向にある。

第40病日:退院後の胃カメラ(写真3)。潰瘍の著明な治癒を認めるものの、中心部に脆弱な赤色調の隆起性病変を認める。同部位より生検③。

潰瘍がほぼふさがっている。潰瘍中心部に柔らかい肉芽組織の膨隆がある。
写真3:潰瘍面は引き連れを伴い閉鎖されているが、中心部に肉芽様組織の異常増殖を認める。

第65病日:前回施行した生検③にて悪性腫瘍を認めたため、外科手術となる。手術前マーキングのため胃カメラ施行。写真4。

膨隆部は消失しているが、潰瘍中心部はびらんを有し、不規則に変形している。
写真4:肉芽様隆起は消失。潰瘍中心部の粘膜面の不正な凹凸を認め、表面にびらん形成を認める。写真5の良性潰瘍症例との違いに注目
写真5:(参考)良性潰瘍の瘢痕部。表面が平滑できれい。

 このように短期間で見た目が変わることがよくわかると思います。潰瘍面は小さくはなるのですが、決して治ることはありません。①-③と3回生検を行っていますが、癌細胞が診断されたのは③でした。理由としては、①は癌の大半が脱落してしまい、ほとんど残っていなかった可能性、②では正常粘膜部を生検した可能性があげられます。癌の潰瘍では良性である肉芽細胞と悪性の癌細胞がともに増殖するため、生検したところに癌細胞がなかった時には良性と診断されてしまいます。もし時期がずれて写真3の時に内視鏡をしていなかったら、癌が出ていなかったこともあり得ます。

 このように我々はしつこいぐらいに生検を行います。皆さんからするとまた胃カメラかと、それこそ胃が重くなる気持ちは重々承知の上、癌の早期発見のためご理解いただければと存じます。この時期を逃すと、次は下手をすると末期のステージⅣかもしれません。