ここにAとB、2例の胃潰瘍の写真をお見せします。片方が癌です。どちらか見分けがつきますか?

答えはAです。
次に表示する写真は、2か月後の内視鏡検査の写真ですが、AもBも大きな潰瘍は縮小しています。Bがきれいに閉じ切っているのに対し、Aは治癒傾向にはあるものの完全に閉じ切らず、潰瘍中心部が盛り上がっています。この盛り上がりはがん細胞の増殖です。潰瘍辺縁に残っていたがん細胞がふたたび増殖している写真です。

癌細胞も私たちの体の一部です。ほとんどの癌細胞は、生まれた後すぐに白血球に食べられてしまいますが、運よく生き残った癌細胞は、遺伝子という、いわば人体の設計図を無視して無秩序に増殖し続けます。大きくなるには栄養を補給してくれる豊富な血液が必要となりますが、自分たちの周りに希望通りの血管があることなど、そうそうありません。そこで腫瘍細胞は血管増殖因子(VEGFなど)というホルモンを自ら分泌し、周りの正常組織に血管増殖を促します(この血管を腫瘍血管といいます)。しかしながらこの腫瘍血管自体が不完全ないわば模造品に過ぎず、癌が大きくなるにつれ血流の少ない中心部は壊死を起こして脱落、その結果潰瘍が出来上がります。このように癌は脱落と増殖を繰り返して大きくなっていきます。
一方の消化性潰瘍(写真B)は胃酸により粘膜バリアが破壊され、粘膜下層や筋層まで溶けた状態です。さらに進むと穿孔といって穴が開いてしまいます。潰瘍面は白苔という白色の膜状物質が潰瘍底を覆っていることが特徴的です。ヘリコバクターピロリ菌により引き起こされることが多く、除菌療法を受けていただくと再発しにくくなります。
腫瘍内部から崩壊するのが胃癌、粘膜表面から溶かされていくのが良性潰瘍といったところでしょうか。良性潰瘍では穿孔の可能性があるとお話ししましたが、増殖の旺盛な胃癌では案外穿孔しないものです。急性期には良性潰瘍か、胃癌か区別がつきにくいことも多いです。急性期に行った生検では症例Aも良性でした。胃潰瘍の治療をお受けになった方は、その後も定期観察をうけていただき、癌でないことを確認していただくことをお勧めいたします。