胃カメラ、苦しい?苦しくない?

  いまや胃カメラは、検診や診療の場でありふれた検査となりました。体内に硬い内視鏡を挿入するため気軽に受けられる検査ではありませんが、それでも以前よりは改善されています。そこで問題となるのが、カメラ通過による吐き気痛みと、送気による膨満感の3重苦でしょうか。我々医師も検査を受けることはありますから、常々楽にならないかと知恵を絞っています。そこで、今回はこれら苦行について掘り下げてみたいと思います。

  • 吐き気。のどには異物の侵入を防ぐための咽頭反射があり、残念ながらこれを止めることは出来ません。ただし、これまでの数多の患者さんの献身のおかげで、はれて経鼻内視鏡の実用化に至りました。この内視鏡は鼻の穴にあわせて大変細く、コシも柔らかくなっており、太い内視鏡を「おどり食い」させられていた頃より、はるかに楽になっています。
  • 痛み。生じやすいのは食道の入り口、食道通過時、十二指腸に入る時です。食道の入り口は狭く柔らかいので、強引に入れると穴が開いてしまうことがあります。ここはもっとも注意を払うエリアで、我々医師の技量が試されるところ、優しく挿入するに限ります。そこを超えた食道はまっすぐ進むだけですが、狭く細いため内視鏡が分け入る際に痛みが出ることがあります。十二指腸へ挿入するときには内視鏡が胃の中でJの字にたわむために、胃が押されて痛みがおきます。いずれにおいても細くて柔らかい鼻カメラでは、ほとんど感じないようになりました。あと、忘れてはならないのが、鼻カメラの時の鼻の痛みです。鼻は骨の形状によっては狭い方もおられ痛みが出ることもあります。その際は無理をせず、鼻カメラを口から挿入いたします。
  • 膨満感。バリウム検査では発砲剤で胃を膨らませて写真を撮りますが、胃カメラも同じくパンパンに膨らませます。これは胃のヒダを広げることで、影に隠れている病気を発見するために行いますが、このヒダの広がりそのものも重要です。1993年に、テレビの生放送の場で胃癌を告白された、元フジテレビの逸見政孝さんのことを覚えておられる方も多いと思いますが、彼が闘病されたのがスキルス型胃癌です。進行スピードが速い癌で、癌細胞が粘膜下に潜り込んでいくため胃が硬くなり、空気を入れても胃が拡がりません。粘膜表面の観察だけでは見分けがつかず、空気で胃を拡張させることしか有効な見分け方がありません。

以上をまとめますと、吐き気と痛みは科学の進歩で軽減されています。膨満感は必要な工程ですのでご理解の程よろしくお願いいたします。今後、胃カメラでお腹が張って苦しい時は、「じっくり最後まで観察しているな」とプラスにとっていただければ幸いです。