人間は電化製品です。いや、人に限らず地球上の多くの生き物は、神の創りたもうた電化製品と言えるのです。身近な例を挙げますと、皆さんが検診で受けられる心電図、電という文字が入っているように、心臓は電気信号で動いています。筋電図という検査もありますし、消化器領域では胃電図という検査、脳神経系では脳波検査も脳が発する微弱な電気を拾って診断の助けとしています。
私たちが歩こうと思った場合、まずは脳から両足に司令が伝わり、足の筋肉が動くことで歩行するわけですが、この指令こそ電気信号です。そしてこの電気信号を末梢組織に送り届ける電線の役目を果たすのが、脊髄などの神経線維です。神経線維には大きく分けて脳や脊髄という中枢神経と、脊髄より先の末梢神経に分けられます。そしてこの末梢神経の根元、脊髄近くの後根神経節というところに潜伏するウイルスが存在します。そのウイルスを水痘・帯状疱疹ウイルスといい、皆さんもかかった水ぼうそうの犯人です。

このウイルス、神経組織内に逃げ込んでいるためとても厄介です。なぜ厄介かというと、脳を含めた神経組織は人間にとって最も重要な臓器のため、厳重なバリアが施されており、我々の免疫細胞の手も及ばない絶対安全地帯なのです。仕方なく免疫細胞はその周りでウロウロ監視しているのですが、かぜや寝不足などで免疫力が落ちた時、その一時的に手薄になった監視を突破して発症するのが帯状疱疹です。
帯状疱疹は発症すると、水疱を伴う皮疹と疼痛が生じますが、この痛みは、発症前の「前駆痛」、皮疹が出現しているときの「急性帯状疱疹痛」、そして治癒した後も続く「帯状疱疹後神経痛」に分類され、突き刺すようなしびれを伴う鋭い痛みが特徴です。ウイルスによって電線である神経そのものが傷ついてしまい、神経の過剰な興奮や自発痛、痛みを抑制する経路の障害により、バチバチとショートをしている状況と思えば、患者さんの苦労がお分かりいただけると思います。帯状疱疹後神経痛は数か月、時には数年続く方もおられ、神経節ブロックを行うことも稀ではありません。

帯状疱疹は50歳を超えると発症リスクが高くなります。一番は発症させないことですので、寝不足、不摂生には気を付けてください。最も効果的な対策として、帯状疱疹ワクチンを受けていただくことをお勧めいたします。これまでは各自治体からの助成がありましたが、新年度からは国の助成が始まりますので、詳しくは厚生労働省のホームページをご確認いただければと存じます。