研修医が名医? アニサキス感染症

 テレビ報道などで耳にされたことはあろうかと思いますが、アニサキス感染症は、刺し身や寿司に付着した生きたアニサキスという線虫を摂取することで発症します。平成24年の食品衛生法施行規則の一部改正を契機に報道されることが増えましたが、新鮮な魚の証として日本人には古くから認知されていましたので、近年増えて来ているわけではないと思います。

アニサキスが寄生しているところ
胃体下部大彎部分に寄生したアニサキス。頭部が粘膜に喰いこんでいる。

最終的にはイルカやクジラなどにたどり着くので、人間にいたずらをするのはその幼虫(第3期幼虫)です。人間には寄生できず、数日で死んでしまいますので、体内に残る心配はいりませんが、寄生している間は激痛を伴います。これはかみついたことで急性のアレルギー反応を起こすために生じるとされており、内視鏡で観察すると感染部位周囲の胃粘膜は腫れあがっていることが多いです。

アニサキス寄生により急性アレルギーが出現しているところ
アニサキスが寄生して(矢印部分)粘膜がむくみ、盛り上がっている。

治療は簡単で、内視鏡で虫体を見つけて、鉗子で除去するだけです。除去すると痛みはすっと消えることが多いため、研修医でも名医になれる病気と言われるゆえんです。ちなみに寄生するのは1匹だけではなく、複数見つかることがたびたびあります。自衛隊三沢病院で検査をしたときは、一度に4匹除去いたしました。この隊員さんは地元青森の方でしたが、これまでもたびたび経験があり、症状は胃もたれ程度でした。痛みに慣れてしまうのか、この方が屈強だからなのか・・。

鉗子にて除去しているところ
鉗子でつかむところ
回収しているところ

 アニサキスが寄生するのは胃だけではなく、食道や十二指腸のこともあります。また、小腸に寄生すると急激な浮腫のため腸閉塞になることもあり、多くの場合入院加療となります。診断には超音波やCTが必要になりますので、まずは生魚摂取歴を担当医にお話しいただくと話が早いかもしれません。ただし、内視鏡は小腸にまでは届きませんので、安静など対症療法が中心となりますが、閉塞が改善しない場合は手術になることもあります。

矢印は寄生していた粘膜。若干出血あり。

 大幸薬品さんの正露丸は、アニサキスの疼痛軽減に有効であるという報告があります(特許をとられています)。すぐに病院に行けない場合は、とりあえず服用していただくのは一つの手かもしれません。

 アニサキスを回避するには今のところしっかり冷凍するしかありません。釣った魚を料理される場合は、アニサキスに魚の内臓から体内(サシミの部分)に移行させないよう、釣ったらすぐに内臓を除去されるといいでしょう。ちなみによく噛めば大丈夫といわれていますが、小さい虫体をすりつぶすことは難しいと思われます。